NHK BS世界のドキュメンタリー「ソビエト連邦のコマーシャル王」
制作:Traumfabrik(エストニア / フィンランド 2014年)
旧ソ連で唯一テレビCMを制作していた会社、Eesti Reklaamfilm(略称ERF)。このドキュメンタリーではこの広告代理店の栄枯盛衰の歴史が描かれている。何をいつ、どのくらい生産するか決められていた計画経済の影響から品不足でもあったにもかかわらず、いや、そのおかげか(国営企業は予算の1%を広告に使わなければならなかった)CM制作は大繁盛で人手が足りないぐらいだった。
この番組で紹介されているものの中には予算を使い果たすために作られたものや架空の商品のCMさえあった。リビング用のポータブルミニサウナ、家族全員が乗れる水陸両用車「サイクロン」⋯⋯主演者の一人はソ連の技術力を国民に誇示するために作られたコマーシャルなのだから店頭にならばなくても良かった、とさえ言っている。西側の性的退廃ぶりを糾弾した共産党の映像のあと、「西側では視線が商品ではなく胸にいってしまうからヌードはご法度だったが、ソ連では商品が存在しないためヌードを流しても気にされなかったた」という回想が流れたのは傑作だった。
もちろん、実際、存在する商品のためのもあった。CMで紹介されたものがほぼソ連製なので、調べることは難しいが少なくともこの製品は存在していただろう。
このように、ソビエト連邦の歪な構造のもとに成り立っていたERFもやがて終わるときが来る。ERF社長のペートゥ・オヤマ―(Peedu Ojamaa)がカンヌ国際広告祭での銅賞受賞の報道が新聞に小さく載った日に、のちに「歌う革命」と呼ばれた出来事が始まり、その後、ソ連が崩壊すると受注は激減し、会社は分割された。
このように、彼らが辿った数奇な運命は、彼らが政策したCM映像がなければ、このドキュメンタリー自体が完全なフィクションだと考えてしまうくらい面白い。このドキュメンタリーの原題は"Kullaketrajad"(en:Gold Spinners)。これはおそらく、エストニアの民話から名前が取られている(日本語訳は「スイレンと、金の糸をつむぐむすめたち」)。この民話が最後に魔女に隠されていた金の糸が見つかってハッピーエンドを迎えたように、廃棄されたと思われた広告フィルムがエストニア映画保存協会に持ち込まれたことによって、このドキュメンタリーも制作できたのだ。
Soviet spiel: Why the USSR produced ads for non-existing products - Russia Beyond
ラング童話集05英語原文目次@夏貸文庫
The Blue Fairy Book: The Water-Lily. The Gold-Spinners - Internet Sacred Text Archive
The Water-Lily, the Gold Spinners | Andrew Lang's Fairy Books | Fairytalez.com
どうやってソ連のテレビにコマーシャルが現れたか - ロシア・ビヨンド