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私的メモ

浅羽通明『星新一の思想 ──予見・冷笑・賢慮のひと』 (筑摩選書) 目次

[紹介文]

星新一とは何か。シニカルにきらめく千余のショートショート。高度に知的なエッセイの数々。戦後日本をはるか遠方から問い直し、近代の人間観を解体しつくしたSF小説群。圧倒的な知名度にもかかわらず、あんなものは小説ではないとされ、批評の対象とされてこなかった。日本最初のSF作家にして懐疑的思索者たる星新一の全仕事を読み抜き、ポストコロナを生きるための哲学を浮かび上がらせた、壮大なる企て。

 

[目次]
プロローグ ──「流行の病気」『声の網』「おーい でてこーい」 

ワクチンと陰謀/ネット社会をデテールまで予見/洞察された「秘密」を抱く猿たち/「原子炉のカス」もプライバシーも

 

1章:これはディストピアではない ──「生活維持省」「白い服の男」「コビト」ほか

ディストピアという生活様式/「生活維持省」を「キノの旅」、「銀齢の果て」と比べる/星新一が敢えて残酷描写をするとき/平和も人権も相対化される/科学的世界観とDD論/冷笑される反逆者たち

2章:秘密でときめく人生 ──「眼鏡について」「雄大な計画」「おみそれ社会」ほか

「秘密」も「擬装」も大好きだけど/懲役忌避とポリコレ/断筆する筒井康隆と改作する星新一/忠誠心なきスパイたち/秘密という悦楽を生きる/スパイたちのカーニヴァル社会
補論:こだわりについて ──「趣味」「余暇の芸術」「印刷機の未来」ほか

 

3章:アスペルガーにはアバターを ──「地球から来た男」「肩の上の秘書」「火星航路」ほか

隣人はエイリアン/こんにゃく問答するロボット/星版ファースト・コンタクトの絶望/アメリカ人だって日本人だってエイリアン/奇行における無自覚と自覚/アスペルガー症候群で解く星作品の背景/アスペルガー症候群系切望のひみつ道具星新一のつくりこまれた対人アバター
補論:萌えについて ──「ボッコちゃん」「月の光」「殉教」ほか
補論:ルールについて ──「マネー・エイジ」「解放の時代」「元禄お犬さわぎ」ほか

 

4章:退嬰ユートピアと幸せな終末 ──「妖精配給会社」「最後の地球人」「古風な愛」ほか

ユートピアにおける北風と太陽/妖精合唱団のフィルター・バブル/快楽計算の彼方へ/ユートピアの退屈をどう超えるか/「声の網」──究極のユートピアディストピア/グレート・マザーの大いなるゆりかご/バタイユのような蕩尽とバラードみたいな戦時下/惨死がハッピー・エンドとなるとき
補論:戦時下について ── 「澄んだ時代」「きまぐれ読書メモ」「ひとつの装置」ほか
補論:ノスタルジアについて ──「郷愁」「きょうという日」「午後の恐竜」ほか
補論:運命について ──「花とひみつ」「不在の日」「終戦秘話」ほか

 

5章:なぜ「小説でない」と言われるのか ──「霧の星で」「人民は弱し 官吏は強し」「城のなかの人」ほか

山川方夫星新一、恋愛描写を比較する/星新一都筑道夫非モテ描写を比較する/星新一都筑道夫を論じる/都筑道夫星新一論、星作品はなぜつまらないか/感情描写のない小説/感情移入も自己投影もこばむ星作品/バーチャル恋愛を楽しめない星作品/『人民は弱し官吏は強し』という期待外れ/自伝を書けずに終わった星新一/ひとつの装置は脊髄反射的人間をこそ描く/秀頼・ミーツ・千姫、きみはぼくと同じだね/投げ矢ひとつを懐に──旗印にとって「自分」とは何か
補論:インストールについて ──「うるさい相手」「服を着たゾウ」「オオカミそのほか」ほか
補論:状況芸術について ──「セキストラ」「できそこない博物館」ほか
補論:ジュブナイルについて ──「宇宙の声」「ブランコのむこうで」ほか
補論:ナッジ理論について ──「テレビ・新聞・ノック」「鏡」「読書遍歴」ほか

 

6章:SFから民話そして神話へ ──「マイ国家」「門のある家」「風の神話」ほか

星新一のアーリー・タイム/最初の作風変動期をめぐる山野浩一説批判/中期と後期で作品はどう異なるか/「マイ国家」の近代と「門のある家」のポストモダン/新しい波(ニューウェーヴ)と日本SF/「礼儀作法」で異社会へ/ハリ治療から経絡社会へ/世界と真向かうための民話/星新一が渉った五つの季節/そして創世神話の抱腹絶倒が残った
補論:思想について ──「クリスマス・イブの出来事」「鍵」ほか
補論:秘密結社について ──「あれ」「ミドンさん」「黄色い葉」ほか
補論:消費資本主義について - 「思索販売業」「ごきげん保険」「滞貨一掃」ほか

 

7章:商人としての小説家 ──「SF短篇の書き方」「とんでもないやつ」「第一回奇想天外SF新人賞選考座談会」ほか

パーティーで立ち尽くす老作家/星新一、最後の一行は何か/ショートショート、極意の極意/他人とはめったに感心してくれない存在と知れ/口承文芸としての星ショートショート口承文芸としてのアメリカSF/創作としての事業計画書/貨幣の発生といのちがけの飛躍/新井素子はなぜデビューできたか/作家としてでなく一素人として/「文学性」という規制を撤廃せよ/文学賞の正体/番頭さんを従えた家元に/文壇世間へのプロテスト
補論:維新革命について ──「明治の人物誌」「はんぱもの維新」「反政府省」ほか
補論:新自由主義について ──「天使考」「学問の自由」「年賀の客」ほか

 

8章:寓話の哲学をもう一度 ──「老荘の思想」「SFと寓話」「いわんとすること」ほか

哲学者か、寓話作家か/寓話集とまちまちな教訓/ことわざと処世術/人間愚行図鑑、これはSFなのか?/「廃虚」から老荘思想へ/後期道家という問題/道家は虎に騎って/「寓話にしている」と「寓話になっている」/一流寓話には「いわんとすること」などない/イソップはB面を読め──山本夏彦ヴィゴツキー/寓話は道徳から自立している──面白さは教訓を超える/読者というインスパイア
補論:シラカバ派について
補論:賢慮について

 

エピローグ ──「錬金術師とSF作家」「小松左京論」「科学の僻地にて」ほか

セリグマン『魔法』のインスパイア/奇想家としてのSF作家/トンデモ本作者の親戚だったあの頃/実利としての「文学的評価」/筒井康隆独り勝ち、もしくは狙い撃ち/アジールに棲み続ける覚悟/自由だった星新一、正しかった星新一/さあ、あなたの出番がやってきました

 

あとがき:星新一読書会へのお誘い

 

星新一の作品索引